2011年4月19日火曜日

小手先の技術

もう随分昔のことのように記憶していますが、ワタシが一生懸命にロール指導法を研究していた頃の話です。10年くらい昔のことだったと思いますが、今ほどは簡単には指導することはできませんでしたが、習いに来られて頑張って頂いた方々は一応誰でもロールができるようには指導できる水準には達していました。

その頃のカヤックに乗っている多くの方々は、ロールはもの凄く難しい技術でちょっと練習したくらいでは絶対に習得できないから、そんなんなら最初から無理して覚えようとしない方がマシと考える方が多かったように思います。頭の良い海洋ジャーナリストで日本を代表するシーカヤッカー氏などは、ロールを覚えるよりもカヤックが転覆しない為のフォワードストロークをマスターすれば良いと、絵に描いた餅を一生懸命に食べようとしていたのですね!最近では少し言い回しが変わって、覚えないよりは覚えた方が良いなどと人に説いているようだが、木に登れない猿が犬に木の登り方を教えているような感は否めないですね。

まぁそれはともかくも当時は結構シーカヤックマラソンにはまってスピードや距離を漕ぐことに労力を注ぎ、海が荒れたときにどのように対処するべきかという点に興味を持って練習するような人はむしろ少数派で、しかも見向きもされなかったように覚えています。確かにもの凄く距離は漕げるしスピードも速いのだが、ひとたび海が荒れると転覆したり伴走船に助けられたりと自立をしていないことが浮き彫りになったものです。

ワタシはその当時レースそのものを否定していたわけではなく何回か出場をしたことがありますが、時に他の乗り手と競争することはしんどいけれどもそれなりに楽しいということも感じていました。しかし、1人で海へ出ることが多かったので、スピードよりも安全確実なパドリング技術の習得に重点を置いていました。ですからある程度距離を漕げるようになったら、如何に転覆しないか、そして万が一転覆したら100%確実に上がって来れるロール技術の習得に専念していました。

地方の草レースになどに参加をして、終了式が終わっても時刻はまだ昼過ぎなので、一緒に行った仲間と浜の前に広がる綺麗な入り江でカヤックの練習を必ずやっていました。しかし他の参加者のほとんどの皆さんは、サッサとカヤックを片づけて車に乗せて会場からあっという間に消え失せてしまうのが常でした。そんな時、なんかもの凄く寂しいモンを感じてしまいましたね。最近はレースに出たり、そうした会場に顔を出すこともないですから、どんな状況かは良く分かりませんが、恐らく今でもレースが終わったらそんな感じじゃないのかな・・・と想像しますね。違っていることを期待はしますが・・・。

思い出すと不思議なほど「カヤックで練習する」ということがナニか悪いことをしているような周りの空気がありましたね!まず地元のカヤックショップでは特別に大宣伝をして頂きましたが、「あそこへ行ったらしごかれるぞ!」ってね。また遠く離れた関東のスクールでは「あそこはレベルは高いが行かない方が良い」って、非常にユニークで面白い宣伝をして頂いて、それを聞いてわざわざやって来てくれた方もいましたね!一番面白いのは琵琶湖周辺での噂では「あそこは上下関係が厳しく技術の優劣によって番付があり、ロールができなきゃ教えてくれない。」とか皆さん笑えるでしょう!

そんな中で、レースに精を出してみるモノのなかなか好成績も出せず、かと言ってロール習得も覚束ない方から「小手先の技術」を覚えて一体ナンの役に立つんじゃいって陰口を叩かれたモンですが、実はこの「小手先の技術」がなかなか重要で役に立つのですが、習得は非常に難しいのです。

フォワードとドローを組み合わせたような漕ぎ方や荒れた海で有効なローハイなどが代表的な「小手先の技術」だが、未だローハイが確実にできる人は少ないように思います。またパドルブレードでバッタンと水面を叩き大きな音を立てるのがハイブレイスと思っている方も結構おられるかも知れませんが、カヤックを90度傾けて音を立てず静かに水面をキャッチしてゆっくり上がって来るのは、ある意味でハンドロールよりは難しいかも知れませんが、これも重要な「小手先の技術」なのですね!

こうした「小手先の技術」と確実なロール技術を沢山マスターしていると、荒れた海で大きな波が前から来ようが後ろから来ようが怖いどころか楽しすぎる状況にさえ感じられるようになるはずです。しかしダッチオーブンをカヤックに積んで無人島に行き美味しい料理を食べることしか念頭にない諸氏には全く無縁の楽園かも知れません。このGWにはこうした「小手先の技術」についても沢山練習をして頂きたいと思っています。