2013年2月28日木曜日

波の背中 (カヤック事故に関連して)

ワタシがカヤックで初めて小豆島へ行った時のことですが、出艇場所の海は一見穏やかに見えたので、出艇して漕ぎ進みました。この時ひとりでした。セルフレスキューはできましたが、ロールは全くできず波に対する恐怖心は相当にありました。

ちょうど真ん中辺りに来たときに、後部からざわめく波の音が聞こえ振り返るとそれまで経験のない大きな波の中を漕いでいることに気がつきました。この時はあまり風は吹いていなかったので潮流による波だったように覚えていますが、波の背中だけを見て漕いでいたので知らず知らずの内に大きな波の中に入ってしまったのです。

引き返すよりは目的地の方が少しだけ近かったのでそのまま漕ぎ進むことにしたのですが、波のサイズは大きくなるばかりでした。そして時折バウが波で持ち上げられ空中に浮きそして海面に叩きつけられるときに転覆するかも知れない恐怖を感じました。何とか転覆せずに目的地の島に近づくと猛烈なスピードで潮は流れていました。心臓は破裂しそうなほどの勢いでした。

島に付いたら帰ることよりも全身から力が抜け落ち浜に横たわると眠りに落ちてしまうほどでした。2時間ほど爆睡して目を覚ますと、海は完璧に凪いでいて鏡のような水面を漕いで帰りました。

ワタシの場合は、漕いだ距離も短く幸いにも転覆することもありませんでした。そして万が一転覆をして沈脱をしても季節は秋でしたしセルレスキューも充分できたと思います。しかし悪天候による波で寒い時期だったら悲惨な結果に結びついていたかも知れません。

こうして初心者の頃に、「波の背中」に騙されていつの間にか自分の技量を超えた海況に迷い込んだらどんなことになるのかを存分に知らされました。この「波の背中」は風波にも潮流波にもあります。怖いのは潮流波よりも風波です。

これ以降「波の背中」に騙されたことはありませんが、ツアー中に「波の背中」を見ながら、グループの3割のメンバーがビビリパドリングするのを経験したことはあります。つまり「追い波」の中を漕がされて、転覆の恐怖に慄く・・・と言ってもその状況が飲み込めない方も多いと思いますが、その辺の詳細はまた別の機会に書きます。

今回の千葉でのカヤック事故の原因が「波の背中」によるものかどうかは分かりませんが、悪天候で強風波浪の状況で目の前の海が大荒れだとすれば、通常ならば「止めましょう」ということになるはずです。しかし現実には出航してしまっているので、ひとつにはこの「波の背中」も大きな要因だったのでは・・・とワタシは推測します。あくまで推測ですが、指導者やガイドの方は色々なことを想定して原因を分析して見ることも大切な仕事ではないかと思います。

しかし、他にももうひとつ出航の要因が考えられます。それは「風を遮る山(丘)」の存在も考えられます。

次回はこの「風遮山」について書きます。